フラメンコ・ギターのソロの分野の歴史は意外に浅い。フラメンコ・ギターはCante[1]、Baile[2]の伴奏が基本で非常にシンプルなファルセータ[3]で紡がれるものだった。ソロはどちらかと言うと余興的扱いだったようだ。そんな状況の中、大巨匠Ramón Montoya (ラモン・モントージャ~1880-1949)が、クラシック・ギターの奏法を積極的に取入れて、より複雑で華麗なファルセータを駆使した作品を、フラメンコのほとんど全てのリズム形式で録音を残して一つの底本を創った。
その後、Niño Ricardo (ニーニョ・リカルド~1904-1972)が非常に独創的で表現力豊なToque[4]を完成させたと言ってもいい。パコ・デ・ルシアが最も影響を受けたのは紛れも無くリカルドだ。
そのすぐ下のSabicas (サビーカス~1912-1990)は、特にフラメンコ・ギターの技術的な面で画期的な功績を残した。彼以前に例えばPicado[5]を速く、力強く、美しく弾ける奏者はいなかった。“完璧”という言葉はサビーカスのためにあると言っても過言ではない。
しかし、そのサビーカスをも凌ぐギタリストが現れた。ご存知、Paco de Lucia (パコ・デ・ルシア~1947-2014)である。
その初期の頃はリカルドやサビーカスの影響をモロに受けまくっていたが、1976年に発表したアルバム「Almoraima (アルモライマ)」で伝統的なフラメンコ音楽の領域で表現可能な全てを完成させてしまい (この時29歳)、その後ジャズ・ミュージシャン(チック・コリア、ジョン・マクラフリン、ラリー・コリエル、アル・ディ・メオラなど)との接触により、特にそのハーモニーにおける革新的な音楽表現が1987年に発表されたアルバム「Sirocco(シロッコ~熱風)」で結実。全く新しいフラメンコの“形”を創ったエポックメイキングとして史上に名を刻むことになった。
このアルバムは以後、現在に至るまでパコ自身ですら越えることは不可能と言わしめる不朽の名盤になっている。今聴いても全く古さを感じさせない。興味のある方は是非ご一聴を。
こうなるとパコ以後に続くギタリストは大変だ。何をやってもパコの影響からは逃れられないし、パコとは違う表現で新しいものを創造することはほとんど不可能と思われた。
が、それをやってのけたギタリストが彗星のごとく登場する。それがVicente Amigo (ビセンテ・アミーゴ~1967-)だ。
もちろんパコの影響は受けているのだが、彼がパコ以降のギタリストの中で飛び抜けているのは、リズムの刻み、絶妙なニュアンスに彩られた歌いまわしと立体的な音の響きではなかろうか。特に長い手指を活かしたストレッチ[6]を多用したテンション・コード[7]と、全てではないがアルペジョもアポヤンドで演奏することによって生じる独特な“うねり”を持つファルセータは彼ならではの個性だと思う。無論パコには無い個性だ。
それらが渾然一体となって彼独特のロマンティックな音楽表現が生まれている。普段、あまり音楽を聴かない人が聴いても感動させる“何か”がそこには確かにある。初めて彼の演奏をCDで聴いた時は「こういう表現の仕方があるのか」と心底驚いた。何度か来日公演にも足を運んだが、ライヴではそれがダイレクトに伝わってきて至福の時を過ごすことが出来たことは言うまでもない。
リズミックな曲も当然素晴らしいが、彼の歌心を十二分に堪能して頂きたいので是非この動画をご覧いただきたい。まさに“フラメンコ・ギターの詩人”だ。そしてくやしいことに“イケメン”だっ!(こ、ここまでマジメに書いてきてオトすか・・・)
This video is embedded in high quality. To watch the video in standard quality (because of the internet connectivity) use the following link: Watch the video in normal quality
ビセンテときいたら、彼の崇拝者としては黙っていられません!(笑)
彼こそ、神に選ばれたギタリスタだと信じています。
5歳の時にテレビでパコの演奏を聴いてギタリスタになろうと決意する子どもなんてそうそういませんよね。
家族にも周りにもフラメンコはひとりもいない環境に生まれ育ちながら、彼はフラメンコなんですから。
素顔のビセンテは、優しくて気さくで暖かくて陽気なのに、ひとたび舞台に上がればものすごいテンションで、輝くようなオーラに包まれていて・・。
聴いただけですぐにビセンテと分る音と旋律。
やっぱりビセンテは個性的です。
このタランタはビセンテが20歳の時にウニオンのコンクールで演奏して優勝した、まさに彼の原点ですね。美しすぎ。
@Angelitaさん
神が彼の肩に手を置かれたのでしょう。オイラには置いてくれなかったけどっ!
パコは逆にフラメンコ一家でしたね。でも、お母さんのLuziaさん(オイラのハンドルの由来・・・。勝手に使ってごみんなさい)はポルトガル人なんですよね。不思議だ。
ビセンテは確かに気さくな方ですね。手の大きさのくらべっこもしてくれたし(笑)オイラも結構大きな手なんですが、ビセンテ君の方が1cmぐらい指が長かった・・・。
このタランタはオイラ自身思い入れのある曲なんです。初めて憶えたビセンテの曲であり、人前でも2回弾いたことがります。難しい曲ですが今でも大好きな曲です。
こんにちは。はじめまして。
ビセンテ・アミーゴで検索してたら飛ばされてきました。
パコ・デルシアは数年前からですが大好きで
ビセンテアミーゴも最近知って、こちらもすぐ好きになりました。
フラメンコギターは、煌くような旋律と複層的なハーモニー、
心の底に共鳴する情感的なところがとても素晴らしいと思います。
他にはタンゴ・バンドネオンのアストル・ピアゾラなんかも
大好きです。
私自身はギターも楽器もほぼ弾かないので
それほど深いところまではわかりませんし、浅いファンかと思いますが
地方住まいなのもあって、なかなか周囲にこの手の話しができる人がいません。
というか、ネットで検索してすらあまり情報がないですもんね。
フラメンコギターについて日本人が語っているのを初めて見て
つい嬉しくなって書き込んでしまいました。
これに関して人との初めてのコミュニケーションです(笑い)
また時々のぞかせていただきますね。
それではまた。
@oiroさん
コメントをいただきありがとうございまっす。
ワタクシも基本的にはラテン音楽が最も好きでありまして、ピアソラは神です!
パコ・デ・ルシアが2年前に急逝し、パコに続くギタリストの中ではやはりビセンテ・アミーゴが傑出していますね。
彼のデビュー・アルバム“De Mi Corazon Al Aire(邦題:我が心を風に解き放てば)”を初めて聴いた時は衝撃的でした。明らかにパコとは違う方向性で新しい表現法を確立していたからです。
フラメンコ・ギターの音楽は行き着く所まで行ってしまった感があり、更なる歴史的変革は今後はあり得ないと思うのですが、スペインは時として想像を遥かに超える天才を生み出す国なので、すんごいプレイヤーが出てくるかもしれませんね。
@Luzia
ご無沙汰しております。こんばんは。
このところ私は、「Apple Music」の広大な海の上をひたすら漂っている感じなのですが
先日それが私にビセンテアミーゴの一枚のアルバムをオススメしてきました。
すぐに気に入ってライブラリに加え、繰り返し聞き込んで感銘を受けていたのですが
あれまてよ、これってもしかして以前名前を聞いたあれじゃないか?とピンと来ました。
“De Mi Corazon Al Aire”でした(笑)。
ジャズとは違う、さすらい風を感じますね。
私は以前から、ラテンは西欧の演歌だという気がしてるんですが。
@oiro様
こちらこそご無沙汰しております。
“De Mi Corazon Al Aire”ですか。ビセンテ・アミーゴのデビュー・アルバムですが、パコ・デ・ルシア以降のギタリストによるアルバム中でもダントツの新しさと可能性を示した名盤でっす。
>私は以前から、ラテンは西欧の演歌だという気がしてるんですが。
そのとおりだと思います。