全人類的お宝必聴盤~Part15 “ナルシソ・イエペス/入江のざわめき”

Narciso Yepes(ナルシソ・イエペスW)=“禁じられた遊び”のイメージが未だに根強いわけですが、彼がクラシック・ギターの世界にもたらした功績は計り知れませぬ。それは特にギター演奏の技術面において顕著であり、ギター演奏法史上の革命と言っても過言では無かろうと思います。直接的、間接的にその影響を受けているギタリストは星の数ほどおります。さて、そんな大巨匠ですから、名盤は数多く存在し、そのどれもがお宝必聴盤と言えるわけですが、懊悩の上1枚を選ぶとするとこのアルバムがどうしても忘れることが出来ませぬ。

“ナルシソ・イエペス/入り江のざわめき~1990年”

  1. イサーク・アルベニス/アストゥリアス(伝説)
  2. イサーク・アルベニス/入り江のざわめき(マラゲーニャ)
  3. アグスティン・バリオス/大聖堂
  4. コンセプシオン・レブレーロ/ホアン・デ・ラ・クルスの想い出
  5. ミゲル・アンヘル・チェルビート/アルゼンチン組曲
  6. ホアキン・マラッツ/スペインのセレナード
  7. エスタニスラオ・マルコ/グァヒーラス

※スキャナー不調のため、別のアルバムジャケットに差し替えています。

アルベニス、マラッツ、マルコの作品は古くからイエペスのレパートリーとして知られていますが、プロ・アマ問わず現在では誰もが一度は演奏するバリオスの名曲“大聖堂”は、イエペスが生涯を通じて唯一録音したバリオス作品であります。しかも、3弦をF♯に下げて演奏するというイエペスらしいアイディア(賛否両論ありますが・・・)が素晴らしい!

レブレーロとチェルビートの作品はともにイエペスに捧げられた作品で、これが初録音であります。とりわけレブレーロ作品におけるイエペス渾身の演奏は深く、心の襞にまでぐいぐいと食い込んでくる凄まじい演奏であります。実はこの作品の誕生にはあるドラマがあったのです。

レブレーロは当時40代の女流作曲家で、マドリード音楽院で教鞭を執っていました。そして、偶然にもイエペスの子供達の先生でもありました。

レブレーロにギター作品を書くことを薦めていたイエペスですが、レブレーロ自身はギターの事を何も知らないという理由で断り続けていました。

1986年。イエペスに不幸が訪れます。愛する息子、ホアンが交通事故で逝去。その報を聞いたレブレーロはそれまで拒んでいたギター作品の作曲へ着手し、あっと言う間に曲を仕上げました。それが、このアルバムに収録されている“ホアン・デ・ラ・クルスの想い出”であります。

通常、ギターの楽器的機能を知らない作曲家が書いたギター作品は演奏不能の部分が多々存在するのが当たり前であり、ギタリストと相談を交えながら適宜修正を施して完成されるものですが、楽譜を受け取ったイエペスは、10弦ギターのために書かれたこの作品に1音の変更を加える必要が無いことを見出し「奇跡だ!」と思われたそうです。

このような経緯を経て作曲・録音されたという事実を知らなくても、イエペスのこの作品に寄せる思いが聴き手に迫る神懸かり的超名演であることは間違いありません。極論すれば、このアルバムの価値はこの1曲を聴くだけでも成就されるでありましょう。

しかし、残念ながらこのアルバムは現在入手が大変難しい状態です。どこかで見かけたら万難を排して購入することをお薦めします。

  1. それは聴いてみたいなぁ。
    イエペスは残念ながら生演奏を聴いたこともありませぬ。

    私はアストゥリアスがとても好きでギターを始めたのに、とうとう弾けませんでした。
    入り江~は練習したんですが、アストゥリアスは難しいのでしょ?
    19歳の誕生日が丁度レッスンの日で、Y先生にアストゥリアスと大聖堂を弾いてもらったのがなつかしい思い出です。(何十年前やら・・)

    • Luzia
    • 2011年 1月 26日

    @Angelitaさん
    「入江のざわめき」も「アストゥリアス」も、ピアノ原曲は初心者クラスでも演奏可能な技術レベルなんだそうですが、ギターだと上級クラスになってしまいますね。

    オイラもイエペスを生で聴いたことがないのであります。一時期、毎年のように来日公演を行っていたので、いつでも聴けるとタカをくくってのが間違いでした・・・。来年こそは絶対に行こうと心に決めた年に天に召されてしまいました。

    • 98user
    • 2018年 1月 6日

    当方所有のCDはキングレコード(sevenseaレーベル)でグラモフォン(発売元ポリド-ル)ではありませんでした。イエペスの演奏は大好きでセゴビアのような楽譜を無視したルバートや改変が少なくて好感が持てました。和音を必ずアルペジオしたがるギター弾きが多いのはセゴビアの弊害ですね。
    ホアンデラクルス(聖十字架のジョン)とは死後の贈り名で、天皇が死ぬとその元号で呼ばれるのと同じことです。スペインで姓名に冠詞がつくのは貴族だけですが、イエペスの功績もあってこのような贈り名になったのでしょう。

    イエペスの生演奏には何度も接しました。レコードと全く同じ音がする!と驚きました。昔、阿部保夫氏や小原安正氏の生演奏にはがっかりしましたから(意外と音が小さくてちょろちょろ鳴ってるだけでした)。
    和音の厚い響きと軽妙な単音の音質はピアノ的でしたが、バルエコのような軽すぎる音ではありませんでしたね。セゴビアほど音色を変えないのが特徴的で、ギターの形をしたポータブルピアノだと思えばこんなものかというところですね。ギターだと思うからテクニックがすごいとかって話になるのでしょう。ちなみに当方は10弦ギター弾きです。

    • Luzia
    • 2018年 1月 6日

    @98userさん
    コメントをいただきありがとうございました。

    >当方所有のCDはキングレコード(sevenseaレーベル)でグラモフォン~
    そうなんです。このアルバムはキングですね。スキャナーが不調だったので、別のジャケットで代用してしまいました。(グラモフォンですね・・・)

    ワタクシは一度もイエペスの演奏を聴くことが出来ませんでした。チャンスはあったのですけど・・・。今思えば、万難を排して聴きに行けばよかったと後悔しております。

    >ギターの形をしたポータブルピアノ~
    この愚ブログでも触れたことがある山下和仁さんと渡辺香津美さんの対談集、「ギター対話」の中に、山下さんが中学生の時に受けたイエペスのレッスンの事が書かれていて、イエペスが山下さんの後ろから回り込んで、山下さんにCコードを押さえるように言い、おもむろに和音を弾いたのだそうです。それがまるでグランド・ピアノのような音で大変衝撃を受けたとのことです。

    • 98user
    • 2018年 10月 14日

    十代のときイエペスのレッスンを受けたことがあります。
    トレモロを近くで聞くとマシンガンのようでしたが、離れて聞くと連続音にしか感じませんでした。逆にこのレッスンでプロギタリストになろうという野望は完全に失せました。いくら努力しても埋められないものが存在すると思い知らされたレッスンでした。でもコンサートは飽きもせずに8回も行きました。後になるほどチケット代が高くなってきましたけども。

    • Luzia
    • 2018年 10月 14日

    @98userさん
    コメントをいただきありがとうございまっす。

    えぇっ!イエペス大先生のレッスンを受けられたなんて、羨ましすぎまっす。

    >トレモロを近くで聞くとマシンガンのようでしたが、離れて聞くと連続音にしか感じませんでした。
    録音や動画などを拝見しますと、イエペス大先生は通常のギタリストよりもかなり速くトレモロを弾かれますね。よくあのスピードを最後まで維持出来るものです・・・。

    ワタクシは結局、イエペス大先生を生で聴くことが出来ませんでした・・・。何度もチャンスはあったのですが・・・。

    • 98user
    • 2018年 11月 28日

    >通常のギタリストよりもかなり速くトレモロを
    中学生の時はレコードにあわせて弾けないくらいでしたね。
    今ならできますが、そのペースで弾けるだけのタッチが完成されていなかったのと楽器の性能もあったと思います。

    当時の量販品では減衰が激しくてきれいなトレモロになりませんでしたし、タッチも安定していませんでした。周りから、すべてアポヤンドかなんて言われたりもしましたけど、鳴らない量販品で無理やりのタッチでしたし。

    ただ生イエペスをそばで聞くと爪の音すごかったです。

    • Luzia
    • 2018年 11月 29日

    @98userさん
    コメントをいただき誠にありがとうございまっす。

    ワタクシが生まれて初めて聴いた“アランブラの想い出”の演奏がナルシソ・イエペスのものでした。

    ワタクシの母親はギターは全くやらないのですが、なぜか家にイエペスのカセットテープがありまして・・・。一体、どうやって弾いているのか当時は皆目見当が付きませんでした。

    >ただ生イエペスをそばで聞くと爪の音すごかったです。
    アンドレス・セゴビアもそうだったらしいです。でも、ホールで聴くと全然爪の音は聴こえないのですよね。

    • 98user
    • 2018年 12月 2日

    小川宏ショーという麻のバラエティ番組にイエペスが出演したとき、当方は大雪で臨時休校のためみることができました。禁じられた遊びのロマンスとアルハンブラを弾きましたが、漠然と「流布してる楽譜とは違うのだろうな」と思ったことを覚えています。

    運指も若干違ってるようでしたし、禁じられた遊びを生で聞けたのはそれから二十年以上も後でした。なかなかコンサートでは弾いてくれませんでしたからアンコールを10曲以上粘って拍手ばっかしてましたよ。

    中学生のときはコンサート会場まで行くのが大変でしたが、高校生になると来日の毎におっかけしてました。その当時ジョン・ウイリアムスが来日し、阿部保夫と全く違う魔笛に衝撃を受けました。ようやく6弦時代のイエペスのレコードを入手したとき、今度は10弦と違うダサい演奏にショックを受けたと同時に添付された楽譜と演奏の違いにこれまた悩んだものです。

    >>でも、ホールで聴くと全然爪の音は

    しました。少なくともこちらが聴いたときは。セゴビアの場合一種都市伝説では?

    • Luzia
    • 2018年 12月 4日

    @98userさん
    小川宏ショーっ!な、懐かしい・・・。この番組にイエペスが出演したことがあるとは初めて聞きました。

    >しました。少なくともこちらが聴いたときは。セゴビアの場合一種都市伝説では?
    ガビーン・・・。都市伝説かもしれませんね・・・。

    • 98user
    • 2018年 12月 4日

    >都市伝説

    セゴビアはある種アンタッチャブルな存在で、日本ではギタリストはおろか評論家でさえ賞賛の嵐を強要されていましたね。

    曰く音色が曰く歌心がとか信者にはたまらない存在のようで、昔のSPレコードを聞き込んでいる人ほど思いこみも激しいような気がします。復刻されたLPを10数枚持っていたこともありますが、
    当時でさえ生には及びませんでしたね。ただ、当方が聴いたのは晩年で90歳になんなんとしていたわけですから、多少の引間違い、弾き癖には目をつぶってましたけど、翌日の新聞のヨイショはすごすぎでした。ま、当時は活ける伝説だからしょうがないですが。

    なんかセゴビアの悪口は一切言えないという雰囲気が世界中にあったような気がします。
    多少爪の音が入っても「気のせい」にされてしまったように。

    パコデルシアやカニサレスを神扱いするのと変わらないような気もします。彼らのアランフェスはスケールで走りたがる傾向があって少々はらはらさせてくれますよね。

    • Luzia
    • 2018年 12月 5日

    @98userさん
    >セゴビアはある種アンタッチャブルな存在で、
    確かにそうかもしれませんね。セゴビアが最後に来日された頃はクラシック・ギターをやってはいたのですが、どちらかと言うとフォークやロックに傾倒していたこともあってコンサートに行こうという気持ちにならなかったです。ボロボロの演奏でも一度は生で聴いて見たかったと後悔しております。

    >パコデルシアやカニサレスを神扱いするのと変わらないような気もします。
    ワタクシにとってはパコはやはり神なのですが、意外と調子の並がある方で、あぁ~パコも人間なんだなとある意味ホッとしました。

    パコのアランフェスは生で聴いたのですが、日本が初演(パコは公にはCDにもなっているスペイン公演が初演と言っていたりします・・・)だったこともあってかなり緊張されているご様子でした。後半のフラメンコ・ステージでは緊張から解放された感じがひしひしと伝わってきて面白かったです。

    • 98user
    • 2018年 12月 8日

    80年代に聴いたセゴビアの演奏はそれほどぼろぼろではなかったですよ。
    技術的に無理だからテンポゆらしたり、音ずらして弾いてるのか?と勘ぐりたくなるよう内容ではありますが、これはSP時代からのもの。むしろ音の太いラミレスでは爪の音をうまくカバーしてるなという印象でした。

    「パコ」
    フランシスコ・タレガは三代続いた「パコ」なので、最も若いパコが常にパキート(小さいパコ)と呼ばれていたそうです。伝記では父がティラード、本人がエイクセア、息子をパキート
    と表現してました。父と本人の呼称は母方の姓です。タレガの正式名は「フランシスコ・タレガ・イ・エイクセア」です。イエペスは、ナルシソ・ガルシア・イ・ジェペスで、カタロニア語地域であるバレンシア出身なのでほぼフランス鉛風な自称ですね。ラテン系は姓が少ないのでアイデンテティを出すために母姓を名乗ることが多いようです。かのアイルトン・セナもそうでした。

    カニサレスの日本人妻は彼の音色を聞き分けたらしいが、ほかと区別つかん。
    当方にはやせた音にしか感じませんでした。

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