H先生とH先公

昨日の記事を書いている時にもう一つの偶然を思い出した。苗字は違うけど、どちらも姓のイニシャルがH。どちらも数学の先生である。H先生は中学一年時、H先公は高校一年時に出会った。なぜ高校の先生の方を先公呼ばわりするのかは後述するとして、オイラは小学校時代、算数が苦手であった。なので、中学に上がって更に高度な数学を勉強しなければならないことに戦々恐々としていたのである。しかし、そんな恐れを払拭しオイラを数学好きにしてくれたのがH先生だった。

H先生は当時既に結構なお歳でありましたが、鶴の如き痩身にロマンスグレーの御髪をオールバック気味に整えたダンディーな先生でござった。柔らかい物腰と美しい字を書かれる方だったな。そして、その授業はとても分かりやすく数学アレルギーのオイラでさえ夢中になったほどであった。

連立方程式の授業の時であった。ひとしきりその仕組みを説明されたH先生は、何題かの連立方程式の問題を板書された。ゆっくりで良いから解きなさいと仰る。で、生徒が解き始めるのを認めるとH先生は教室をゆっくり巡り始めた。生徒達がどのように方程式を解いているか見るためである。

やがてオイラの脇に先生がやって来られた。緊張しつつ問題を解いているとH先生はオイラのノートを覗き込み、オイラの耳元でこう仰った。

“君はなかなかセンスがいいね”

と。

身の内が震えるほど嬉しかったなぁ。以来、オイラは数学好きになったのである。H先生は真に教師の鑑である。

数学好きのまま高校に進学。その時の担任がH先公である。H先公はその春に大学を卒業した教師1年生であった。結論を先に書くと、その時点でオイラは理由はよくわからんのだけど、このH先公とは反りが合わないと予感したのである。そして、その予感は何時間かH先公の数学の授業を受けて確信へと変わった。

二次関数の授業だった。問題を板書したH先公は速やかに解くように宣った。で、3分ほど後に偶然オイラを指名した。それ程難しい問題ではなかったので自信を持って解答を告げると、H先公は不正解とぬかしやがった。そして、侮蔑の表情を浮かべながらこう言った。

“こんな簡単な問題も解けないのか?”

と。

恥ずかしさと悔しさに打ち拉がれていると、オイラの左斜め後ろの席にいた親友のW君[1]が、

“いや、先生が答えを間違っていますよ。”

と助け船を出してくれた。

そう、マジでH先公の方が答えを間違っていたのだ。

もしこの時、H先公がちゃんと自分の非を認め、オイラに対して誠実な詫びを入れていたら後々まで憎悪することもなかっただろう。H先公は、

“M(←オイラの姓ね)、わりぃわりぃ”

で済ませたのである。

この日以降、オイラは数学を真面目に勉強することを放棄するとともに数学嫌いになり、H先公に対しては卒業するまで反抗的な態度を貫いた。H先公は真に教師失格である。

教師の何気ない言葉が生徒を奮起させもし、落胆もさせる。オイラの場合、数学という学問で偶さか天国と地獄的な経験をしちまったのは不幸であった。

H先公がその後経験を積み、良き教師になっていることを祈るばかりである。

  1. 彼は高校三年時に全国模試で1位を獲得するという数学の天才であった。卒業後は東京理科大学に進学。 [戻る]
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