コンサートレポート~第5回逢坂剛 カディスの赤い星ギターコンサート(2012年5月26日)

このブログを始めて7月で丸3年になりますが、コンサートレポートなるものを書いたことは一度も無い・・・。[1]つまり、少なくともこの3年間は仕事がらみではなく、自分の意志でチケットを購入しコンサート会場に足を運んでいないということである・・・。なんってこった・・・。というわけで、直木賞作家の逢坂剛Wさん主催による“第5回 逢坂剛 カディスの赤い星ギターコンサート”に、オイラが個人的にお世話になっている飯ヶ谷守康先生が出演される事もあって超ぉ~~~久し振りにコンサートへ行ってまいりました。なので、初コンサートレポートっていうのをやってみます!

場所は大手町にある日経ホールでした。新しいホールなのでとても綺麗。実は今日は普通に仕事だったので3時過ぎに早退。終演後に会社には戻りましたが・・・。コンサート開始は4時30分からでございました。

ステージ上には逢坂さんが所有されているギターが4本置かれておりました。古い順から“サントス・エルナンデス”、“マルセロ・バルベロ”、“アルカンヘル・フェルナンデス”、“ホセ・ロマニリョス”でした。錚々たる名器群に圧倒されました。しかも全てフラメンコ・ギターです。凄い・・・。今回出演のギタリスト3名が1曲だけこれらの名器を使用して演奏されました。誰がどの楽器を使用したかは下記のレポートで書きます。

さてさて、司会役の逢坂剛さんの軽妙洒脱なトークを交えながらコンサート開始です。

第5回 逢坂剛 カディスの赤い星ギターコンサート

出演:逢坂剛/沖仁木村 大飯ヶ谷守康

【第一部】

01 コユンババ(木村 大:ソロ)
トップバッターはクラシック・ギター界若手の雄、木村 大さん。イタリアのギタリスト作曲家、Carlo Domeniconi(カルロ・ドメニコーニ)の4曲からなる組曲“コユンババ”から第1曲と第4曲を演奏。この曲は純然たるクラシック・ギター作品ですが、オープンC♯マイナーという変則チューニングを使用したエスニックな作品です。幻想的な第1曲とプレストによる第4曲の対比が実に面白かったです。

02 聖母の御子(木村 大:ソロ)
有名なカタルーニャ民謡から“聖母の御子”。この作品のギター編曲は業界ではMiguel Llobet(ミゲル・リョベートW)のものが余りにも定番なので大さんもこのアレンジで演奏するのかと思いきや、なんと変則チューニングによる彼独自のアレンジで演奏。大さんのお父様もギタリストで、子供の頃は大変厳しく指導されたそうです。そんな大さんをいつも優しく見守ってくれたお母様に感謝の意味を込めてアレンジしたそうです。この曲のみ大さんが子供の頃に使用していたアルベルト・ネジメさんのショート・スケールの楽器を使用。スローバラード風のとても美しい演奏でした。

03 エアーズロック(木村 大:ソロ)
大さんのオリジナル作品。“ウルルW”、一般的には“エアーズロック”として余りにも著名なあの巨大な一枚岩の重力に逆らうかのような威容を、アボリジニの歌や踊りなどからインスパイアされたフレーズを使用した作品で大変エモーショナルな演奏でした。こちらも独特な変則チューニングを使用。個人的にはかなりハマった曲でした。

04 風(木村 大:ソロ)
こちらも大さんのオリジナル作品でやはり変則チューニング作品。この作品で逢坂さんの楽器を使用。大さんが選んだのはアルカンヘル・フェルナンデスでした。きらびやかで色彩感に富んだ音が魅力です。タイトルどおり一陣の風のような颯爽とした曲でした。大さんが他の若手クラシック・ギタリストと一線を画しているのは、このようなポピュラー風作品を作曲して演奏しているところでしょう。純然たるクラシック・ギターファンの方の中にはこのようなスタイルを受け入れ難いかもしれませんが、大君の感性が遺憾なく発揮されており個人的には好きであります。

05 タンゴ・アン・スカイ(木村 大×沖仁:デュオ)
このブログでも何回か取り上げている僕が大好きなギタリスト作曲家、Roland Dyens(ローラン・ディアンス)の人気ギターソロ作品をギター・デュオで。ここで沖仁さんがご登場です。前回第4回の同シリーズでは村治佳織さんとこの作品を演奏されています。実は大君と沖仁さんは以前に共演しておりバッチリ息が合っておりました。沖仁さんのリズムの刻みが実にカッコ良くて、この曲の魅力を最大限に引き出しておりました。

06 サマープレスト(木村 大&沖仁:デュオ)
プログラムを見た時、「はて、これは誰の曲なんだろう?」と思ったのだけど、この作品はなんとAntonio Vivaldi(アントニオ・ヴィヴァルディW)の傑作“Le quattro stagioni(四季)”の“夏”から第3楽章を大君がギターデュオ用にアレンジした作品でした。皆様御存知のとおりスケールの嵐のような楽章ですのでギターで演奏するのはかなりの冒険なんですが、思いの外ガチンコなアレンジにクリビツ。プログラム前半の白眉でありました。終演後、会場は熱狂の坩堝に。

07 祈り<タランタス>(飯ヶ谷守康:ソロ)
いよいよ飯ヶ谷先生のご登場です。“サマープレスト”の熱狂の後ではさぞ弾きづらいかと思われたのですが、さすがベテランの余裕です。飯ヶ谷先生オリジナルのタランタス。この作品の実演は何度かお聴きしているのですが、今までで一番良かった。タイトルどおり“深い祈り”を感じさせてくれました。

08 パティーニョの想い出(飯ヶ谷守康:ソロ)
Paco De Lucía(パコ・デ・ルシア)が彗星の如くフラメンコの世界に登場した時代は、飯ヶ谷先生の世代にとって常に指針となる巨大な存在であり、それは国内外のより若い世代のギタリストの方(プロ、アマ問わず)にとっても現在進行形で厳然と聳え立つものでありましょう。パコの作品を演奏するということは冒険でありますが、1970年代から折に触れてパコ作品を演奏されてきた日本のフラメンコ・ギタリストは恐らく飯ヶ谷先生でしょう。“パティーニョの想い出”はパコのデビュー・アルバム、“La Fabulosa Guitarra De Paco De Lucia(邦題:天才)”に収録されている短調のアレグリアス。大舞台で演奏するのは十数年振りとのことでしたが、素晴らしい演奏でした。

09 追想(飯ヶ谷守康:ソロ)
再び飯ヶ谷先生のオリジナル作品で形式は“ペテネーラ”。諸説ありますが、フラメンコの世界で“ペテネーラ”は不吉な曲であるというのが通説であります。実際深い哀しみに包まれた曲調です。この作品は飯ヶ谷先生の愛犬が亡くなった時に作られたそうで、哀悼の念がひしひしと伝わるドラマティックな作品でした。伝統的な“ペテネーラ”にテンションコードを配したモダンな曲調で大変美しかったです。

10 タンギージョ・デ・カディス(飯ヶ谷守康:ソロ)
飯ヶ谷先生をフラメンコの世界へと誘うきっかけとなった巨匠、Melchor de Marchena(メルチョール・デ・マルチェーナ)。FMから流れたメルチョールの演奏を聴いてスペインに渡る決心をしたそうです。メルチョールはカンテ伴奏の大家としてフラメンコの世界では夙に有名ですが、ソロの録音も残しています。その中からタンギージョ・デ・カディスが演奏されました。ここで逢坂さんの楽器を使用。飯ヶ谷先生が選ばれたのはホセ・ロマニリョス。とても軽やかな音色で、タンギージョ・デ・カディスの小粋な感じにピッタリでした。シンプルな作品ですが、タンギージョは難しいリズムです。懐かしくてちょっとウルウルしてしまった・・・。

ー休憩ー

【第ニ部】

01 レスペート・イ・オルグージョ=誇りと敬意~<ファルーカ>(沖仁:ソロ)
このシリーズに今回を含め5回全て出演されている沖仁さんがご登場です。実は木村 大さんもそうなのですが、沖仁さんも実演で聴くのは今回が初めてであります。本当のことを申しますと、沖仁さんのデビュー盤CDを聴いた時に素晴らしいとは思ったのですが、僕の中では何かしら受け入れられない部分があり、失礼ながらその後ずっとスルーをしていました。その後、某テレビ番組で沖仁さんが優勝された第5回ムルシア“ニーニョ・リカルド”フラメンコギター国際コンクール・国際部門のドキュメンタリーを観て良い意味での変貌をまざまざと見せつけられ、モヤモヤしていたものが一気に吹っ飛びました。さて、前置きが長くなりましたが、1曲目のファルーカ。伝統的なファルセータを交えつつ破綻ギリギリのかなり先鋭的な作品でした。こういう作品を生み出す日本人フラメンコ・ギタリストがとうとう出てきたんだなぁと感慨一入でありました。

02 フエゴ~炎~<ブレリア>(沖仁:ソロ)
いやはや、素晴らしいブレリアでした。かなり速いテンポで演奏されましたが全く澱みがなく、曲が進むほどに熱を帯びてくるまさに“フエゴ(炎)”のような演奏。高度な技術と感性に裏打ちされた文句無しの名演でした。

03 スーパームーン(沖仁:ソロ)
東日本大震災の8日後、3月19日に見られた“スーパームーン”にインスパイアされた作品とのことです。形式はタランタス。曲としてはちゃんとまとめていないと仰っていましたが、前曲の熱を冷ますかのような幻想的な作品でした。僕自身もかなり引き込まれてしまうほど深い作品で、沖仁さんも演奏後に入り込みすぎて戻れなくなりそうっと仰っていたのが印象的でした。Vicente Amigo(ビセンテ・アミーゴ)のタランタスによる名作“Callejon de la Luna(月の小径)”に通ずる立体的な響きが実に美しかったです。

04 タンゴ(沖仁:ソロ)
ここで逢坂さんの楽器を使用。沖仁さんが選ばれたのはマルセロ・バルベロ。乾いた鋭敏な音色が魅力です。伝統的なタンゴ(タンゴス)を演奏されましたが、後半は聴衆を巻き込んで(?)パルマス大会に。聴衆全員がパルマスを打ち、それに合わせてタンゴを弾く沖仁さん。こういった演出をサラッとこなせる方なんですね。楽しかったです。

05 還流<タラント~ルンバ>(飯ヶ谷守康×沖仁:デュオ)
飯ヶ谷先生がLP時代にビクターから出されたデビュー・アルバム、“羊飼いの歌”から“還流”というタイトルのルンバを沖仁さんとのデュオで演奏されました。飯ヶ谷先生自身のお気に入りの作品らしいです。タラントからルンバに移行するという実験的な作品ですが、とても素晴らしい作品です。恐らくお二人による練習は事前にそれほど出来なかったはずですが、そんな事は全く感じさせず、丁々発止の即興演奏のやり取りに身体が思わず火照りました。

06 SPAIN(沖仁×飯ヶ谷守康×木村 大:トリオ)
ここで木村 大さんを交えてChick Corea(チック・コリア)の代表作“SPAIN(スペイン)”をギター・トリオで演奏。イントロには定番の“Joaquín Rodrigo(ホアキン・ロドリーゴW)/アランフェス協奏曲~第2楽章”が使われていました。これはもう和製“スーパー・ギター・トリオ”っていう感じで皆さんはじけていました。素晴らしい!

07 ソレア(堀越千秋×逢坂剛:カンテ)
最後の最後にサプライズ・ゲストがご登場。マドリード在住の画家でカンタオールでもいらっしゃる堀越千秋さんです。下駄履きでご登場(しかも客席から)というのがいかにも堀越さんらしい。(笑)そして、逢坂剛さんが今回弾かれていないサントス・エルナンデスを使用して伴奏をするというここでしか聴けない演奏でした。これがなかなか良かったです。楽器店の不良社員である僕としてはサントスの音に興味津々だったのですが、別格でした・・・。この日演奏されたすべての楽器の中で一番良い音だったのではないでしょうか?

Fin de Fiesta (オマケ)
お名前を失念してしまったのですが、会場に聴衆として来られていたプロのバイラーラ、カンタオーラお二人が飛び入りでステージに上がられ、全員でブレリアを演奏して見事な大団円と相成りました。

時計を見てみると7時45分・・・。休憩時間は15分でしたので実に3時間という大変なボリュームのコンサートでしたが、ギター三昧の幸せな時間を過ごすことが出来ました。このシリーズは今後も続いて欲しいですね。

さて、このコンサートの模様は当日Ustream配信されましたが、6月12日(火)にBSジャパンで放映されるそうです。興味のある方は是非ご覧ください。

  1. “マニア達の宴”というプライベート・ライブについては書きましたが。(ここ) [戻る]
  1.  「カディスの赤い星」というタイトルだけにひかれて単行本を買ったのはもう20年以上前でしょうか。それがあまりに面白かったので、その後逢坂さんの本はたくさん読みました。
     このコンサートも興味津々なのですが、なんせ地方在住の身(T_T)。いつか機会があればぜひ行きたいです。

    • Luzia
    • 2012年 5月 27日

    @mimさんi
    実は昨年の第4回のコンサートに行く予定ではあったのですが、どうしても抜けられない仕事があったので断念したのでした。

    ようやく念願かなって今回行くことが出来たのですが、これほどボリュームのあるコンサートだとは思いもよらずお腹一杯になりました。(笑)

    僕にとっては本当に久しぶりのコンサート鑑賞でしたが、やっぱりライブ演奏は最高ですね。これを機に時間が出来れば様々なコンサートに足を運ぼうかなと思っております。

  2. 詳細なレビューをありがとう!
    行けばよかったなぁ~・・・と言うかノーチェックでした。残念。
    沖君のスーパームーンは丁度去年の震災の後、様々なコンサートが中止になる中、余震の続く3月21日(確か21だったと思うけど、その辺り)彼は悩みつつもブルーノートのライブを敢行してくれて、そこでほぼ即興で弾いてくれたのでした。
    こんなギタリスタが日本人にも出てきてくれたことがとってもうれしいですよね。
    木村大君はスペインのオーケストラとの共演のアランフェスを聴いたことがありました。

    そして・・・堀越さんも来たなんで凄い凄い。
    堀越さんは大使館のイベントや去年はセルバンテスでも個展をやったので、何度かお目にかかったいるけれど、実に楽しい方ですね。
    とっても盛り上がったみたいで羨ましいなぁ。
    来年は私もぜひ行こうかな。

    Luzia君は仕事の鬼だけど、もっとコンサートに行った方がいいよ~。
    ビセンテもトマテもカニサーレスも来たのにもったいないよ~~。

    • Luzia
    • 2012年 5月 27日

    @Angelitaさん
    ほとんど初めてのコンサートレポートだったのでちょっと力が入り過ぎてしまいました・・・。

    今回はやっぱり沖仁さんの演奏に触れることが出来て良かったです。逢坂さんが聴く度に良くなっているとフリートーク中に仰っておりました。伸び代がまだありそうな予感です。

    まさか堀越さんのカンテを聴けるとは思っていなかったのでビックリしました。

    >ビセンテもトマテもカニサーレスも来たのにもったいないよ~~。
    ホントですね・・・。煩わしいDM作業が無くなったので多少時間的余裕が作れそうです。今後は積極的にコンサートへ足を運ぼうと思っております。

  3. Luziaさんのこのレビューの記事、当方のブログにリンクさせていただきました!
    BSジャパンのオンエアが楽しみです!

    • Luzia
    • 2012年 6月 1日

    @Angelitaさん
    リンク、ムーチャス・グラシアスでっす。

    BSジャパンを観ることが可能な皆様、是非ご覧なされたし。

    • vanilla
    • 2012年 6月 7日

    Luziaさん、初めまして、おじゃまします。
    沖仁さんのファンで、カディスの赤い星コンサートの検索から来ました^^。
    素晴らしいコンサートレポートですね~。
    今回のライヴ、私はUstream配信で、くり返し観ています^^。
    “サマープレスト”には、驚きましたね、ぜひ生で観たかったです。

    お願いですが、お友達のブログに、こちらのレポートを紹介させて
    いただいてもよろしいですか?

    • Luzia
    • 2012年 6月 7日

    @vanilla様
    コメントをいただきましてありがとうございまっす。

    沖仁さんの実演を今回初めて聴かせていただいたのですが、本当に素晴らしかったです。機会があったら沖仁さんのライヴに行ってみようと思っております。

    >お願いですが、お友達のブログに、こちらのレポートを紹介させて~
    全然問題ありません。宜しくお願いしまっす。

    • vanilla
    • 2012年 6月 7日

    Luziaさん、早速のお返事をありがとうございました♪

    沖さんのライヴを観て、フラメンコの世界に迷い込んで(笑)まだ2年ほどですが、
    魔法が解けることはなく^^; 少しでもフラメンコギターのことを知りたいと思う毎日です。

    大好きな、ギターとフラメンコの記事を少し読ませていただきましたが、
    素晴らしくお勉強になる内容ですね。
    Luziaさんのブログを知ることができまして、本当に嬉しいです^^。
    少しずつ遡って読ませていただきますね。
    これからもどうぞよろしくお願いいたします。

    • Luzia
    • 2012年 6月 7日

    @vanillaさん
    沖さんからフラメンコの世界に入られたのですね。素晴らしい!是非たくさんのギタリストの演奏を聴いてみてください。

    駄文ばかりのブログですが、折に触れてギターやフラメンコのことも書きますので読んでやって下さいまし。

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