革命への変遷を耳で確かめる

Paco De Lucía(パコ・デ・ルシア)のアルバム、“Siroco(邦題:シロッコ~熱風)”がいかに偉大なアルバムであるかはこれまで何度も書きました。(ここここここなど)しかし、いきなり革命的な事を成し遂げたわけではなく、そこに至るまでには実に10年という年月がかかっております。1976年に発表した“Almoraima(邦題:アルモライマ)”~1987年の“Siroco”の間にリリースされたアルバムや音源を聴くとその変遷が良くわかります。

主な録音は下記のとおり。

“Friday Night in San Francisco(邦題:スーパー・ギター・トリオ・ライヴ!)”
パコ、Al Di Meola(アル・ディ・メオラ)、John McLaughlin(ジョン・マクラフリン)の“スーパー・ギター・トリオ”による1981年リリース(ライヴ音源は1980年)の伝説的ライヴ録音。ジャズ・フュージョン界にパコの名前が轟いた名盤。

“Castro Marín(邦題:カストロマリン)”
1981年、スーパー・ギター・トリオの来日公演時[1]に東京で録音されたリーダー・アルバム。マクラフリンとラリーも録音に参加。従来のフラメンコ・ギターでは聴かれなかった新しい響きが既に聴けます。

“Sólo quiero caminar(邦題:道)”
こちらも1981年にリリース。上記の公演後、スペインに戻って録音されたパコ・デ・ルシア・セクステットによる初アルバム。ハーモニー上の実験的な試み(変則チューニング等)が始まっています。

“Passion, Grace and Fire(邦題:パッション、グレイス&ファイア~情炎)”
1983年リリース。再びパコ、アル・ディ・メオラ、ジョン・マクラフリンによる“スーパー・ギター・トリオ”でのスタジオ録音によるアルバム。この頃になるとパコはジャズ・ミュージシャンに臆することなく、丁々発止のやり取りをしております。

“Live… One Summer Night(邦題:ワン・サマー・ナイト)”
1984年にリリースされたパコ・デ・ルシア・セクステットのフランス公演からのベスト音源によるライヴ盤。他楽器とのアンサンブルによるSoniquete(ソニケテ)[2]が揺るぎないほど完成されております。

なんと5枚中3枚がスーパー・ギター・トリオ絡みであります。パコがジャズ・ミュージシャンから何かを得ようと必死になっているのがヒシヒシと感じられます。

これ以外にも、1981年に田園コロシアムで開催された“ライブ・アンダー・ザ・スカイ”公演で共演をしたChick Corea(チック・コリア)の存在も見逃せません。翌82年にチック・コリアのアルバム“Touchstone(タッチストーン)”の録音に参加しています。

さて、ここまでは前フリでございます。実はもう1枚重要なアルバムがあるのです。それはイギリスのStephen Frears(スティーブン・フリアーズ)監督による1984年製作の映画“The Hit”のサウンドトラックです。この映画の音楽をパコが担当しています。この映画は残念ながら日本未公開なのでパコ・マニアの方以外は誰も知らないかと・・・。

名優John Hurt(ジョン・ハート)、Tim Roth(ティム・ロスW)、Terence Stamp(テレンス・スタンプW)、そしてスペインのCarlos Saura(カルロス・サウラW)監督の名作“カルメン”でカルメン役を演じたLaura del Sol(ラウラ・デル・ソル)も出演しているクライム・サスペンスのようです。

サウンドトラックの内容は以下のとおり。

“The Hit(Soundtrack)~1984年”

The Hit(Soundtrack)~1984年

  1. The Hit(4:00)
  2. Willies Theme(0:55)
  3. Spanish Sun – The Funeral – Andalucia(3:44)
  4. John Lennon(1:12)
  5. A Kidnap – Convoy(2:14)
  6. Braddock Theme(0:50)
  7. Windmills(1:28)
  8. To Madrid (Willy Parker) (0:30)
  9. Double Indemnity(1:06)
  10. Wasteland – Cracking(2:12)
  11. Maggies Problem(0:34)
  12. Roncevalles(1:14)
  13. The Canyon(0:43)
  14. Cojones(1:58)
  15. Waterfalls Parts 1 + 2(1:40)
  16. Moonlight(4:04)
  17. Hilltop(1:06)
  18. Maggie Fights Back(0:50)
  19. Very Lucky Girl(0:48)
  20. The Hit Part 2(4:00)

ご覧のとおり各曲の長さはミニチュアであります。パコ・マニアにとっては昔懐かしいファルセータも多く使われています。

しかし、中には“Siroco”で初めて使用されていた(と思われた)ファルセータをここに聴くことが出来ます。録音時期的に考えると“Live… One Summer Night”と“Siroco”の狭間にありますので、着々と新しいファルセータを作っていた時期なのかもしれません。

余談ではありますが、16曲目の“Moonlight”という曲だけ4:04と一番長い作品です。形式は“Minera(ミネーラ)”で、曲としてフルに演奏されているます。

“Taranta(タランタ)”などの演奏もそうですが、カンテ・レバンテにおけるパコの内省的な表現は本当に素晴らしいです。パコと言うとどうしてもその人間離れしたテクニックにばかり焦点が集まりますが、パコの凄みはこういった曲種においてこそ発揮されております。

パコ・マニアの方には是非聴いていただきたいのですが、このサントラは現在入手が難しいかと思われ・・・ます。根気よくサーチをすれば、もしかしたら幸せになれるかもしれませぬ・・・。

  1. アル・ディ・メオラの代わりにLarry Coryell(ラリー・コリエル)が参加。 [戻る]
  2. フラメンコ音楽におけるリズムの妙味。 [戻る]
  1. Pacoマニア・Luzia君の渾身の記事ですね。
    Sirocoはいつ聴いても色褪せることはなく名盤ですよね。
    Paco師匠はVicenteの原点ですから・・・。

    希少盤を探すのは大変だけど、手に入れたときの喜びはひとしおですね。
    私もVicenteとペレの幻のCDを見つけた時はすごーく嬉しかったなぁ。

    Luzia君、パコ師匠の新しいCDが出たね。ライブ盤みたい。

    • Luzia
    • 2012年 6月 22日

    @Angelitaさん
    “Siroco”からもう25年も経っているのですが(クリビツ・・・)、音楽の内容が全然古くなっていないのには驚愕です。つまるところ、もうこれ以上の進化は無いのかもしれません。

    Vicenteはもちろんパコの影響を受けているわけですが、全く別のアプローチで新機軸を示したのはやはり偉大です。演奏技術の素晴らしさはもとより、類稀な音楽的センスのなせる業でしょうね。

    >Luzia君、パコ師匠の新しいCDが出たね。ライブ盤みたい。
    2010年のライヴですね。既にiPodに入っております。(笑)いい意味で力の抜けきった演奏でした。僕個人の好みとしては、昔のバリバリな演奏の方が好みなのですが・・・。

    • じんじん
    • 2012年 6月 22日

    そういえば、フラメンコを本格的に好きになったのは
    何がきっかけだったかなぁ。

    たぶん、こんな経緯。

    アル・ディ・メオラの、「地中海の舞踏」を先輩の車の中で聞き、
    まずアルの名前を教えてもらい、どう聞いても2本だったので
    俺 :「これ1人で弾いてるんですか?」
    先輩:「いや、2人」
    俺 :「もう1人の名前は?」
    先輩:「パコ・デ・ルシア」
    俺 :「ピックで弾いてるんですか?」(Luziaさん、メンゴ!)
    先輩:「何言ってるんだよ、指だよ指!」
    俺 :「ロック系ですか?」(またまたメンゴ!)
    先輩:「フラメンコだよ」

    時系列は後だったはずだけど、別先輩宅に泊めてもらった時に
    フラメンコ版カルメンを観て完全にトリコになった記憶が。

    そういえば、あれだけ必死になりLuziaさんにも教えてもらってゲットした
    フラメンコ版のDVD、あるかなぁ(こら~~っ!!)

    Luziaさんにメッチャ怒られそうなので、退散しま~す。
    であであ。

    • Luzia
    • 2012年 6月 22日

    @じんじんさん
    「おい、○○!お前は今日からフラメンコをやるんぢゃっ」とギター部の先輩に無理矢理フラメンメコの世界へと引きずり込まれ、最初に聴かされたのが“スーパー・ギター・トリオ・ライヴ!”版の“地中海の舞踏”でありました。わたくしも最初に聴いた時はパコ師匠が指で弾いているとは思えませんでしたもの・・・。

    で、初めて動くパコ師匠を観たのが映画“カルメン”でした。もう、失禁寸前でした・・・。なので、1989年の来日公演で初めて生演奏を聴いた時は大も小も失禁し、余りに興奮しすぎて鼻血を盛大に吹き上げながら失神もしました・・・。

    以来ずっとパコ師匠を追いかけているのですが、一向にその背中すら見えません・・・。

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